Pioneer Challenge The Spy
— Atsushi Ito (@matsugan) November 1, 2020
R1 Lurrus Burn 🏆❌🏆
R2 Mono Black Zombies 🏆🏆
R3 Lurrus Burn 🏆❌❌
R4 Lurrus Burn 🏆🏆
R5 Jeskai Fires 🏆❌🏆
R6 4C Omnath 🏆🏆
QF Mono Black Vampire ❌🏆❌
さらに調整して63枚。最後はワンマリ白力線なしでハンデスの上からT3始動するもNecromentiaで負け pic.twitter.com/t3jWD1qozw
10月は忙しくチャレンジなどにもほとんど参加できなかったが、久しぶりの土日連続参加で64人という小規模大会ながらも一応トップ8という成果を残すことができた。
というわけで今回は、その際に使用したパイオニアのスパイというデッキについて、63枚という境地に至ったその背景も含めて解説していこうと思う。
■ 1. 77枚型の成立と疑問
コロコロオンラインの連載でも触れたが、パイオニアのスパイは当初青黒型が主流で、それに対して《森の女人像》《楽園のドルイド》を搭載した緑黒型も存在はしていたものの、不安定なマナベースが克服できないという問題点があった。それもあってトップメタのデッキに対しては、サイドに対策が全くとられていないという状況ならば別論、普通に墓地対策がとられている前提だと、どちらの型にせよどうにも勝ちきれないという程度のデッキパワーだった。
Ops, I forget Yorion!
— Golden Pigs (@golden_pigs1) October 11, 2020
Ops, I forget Lands!
Ops, I go to the Pro Tour!
I break the format with this 80 card deck, thanks to @bragioto for helping me with the decklist and the Archon tech in the Sideboard.@SanPop_mtgo pic.twitter.com/doFRU4qrNA
だがそんな折、andrw1232が10月12日のスーパーPTQで優勝したことで、77枚型のスパイが一躍注目を浴びたのである(この大会では80枚だったが、その後のテンプレートは77枚になったのであえてこう呼んでいる)。
これは本当に革新的な構成で、《地底街の密告人》《欄干のスパイ》という1枚コンボのパーツを《新生化》《異界の進化》で16枚搭載にまで増やすことで、16枚程度入っている「手札に来たら困るカード」が手札に来てしまう確率を下げつつコンボ成立の確率だけを上げるというデッキパワーの大幅な底上げを実現したものであり、スパイは所詮二流デッキと看破されつつあった中で優勝したのもむべなるかなといったところであった。
そしてこのデッキの登場によって「スパイはライブラリーを増やした方が強い」という命題が真であると信じられるようになり、以後は77枚型がコピーされてロータスコンボに匹敵するコンボデッキとしてトップTierに食い込むなど、デッキパワーの増加を証明して破竹の快進撃を続けているというのがこれまでの流れである。
しかし、77枚型が提起したのは本当に「スパイはライブラリーを増やした方が強い」という命題だったのだろうか?
Pioneer Challenge The Spy
— Atsushi Ito (@matsugan) October 10, 2020
R1 WB Humans 🏆🏆
R2 WG Aura 🏆❌❌
R3 5C Niv ❌❌
さすがに限界か。 pic.twitter.com/XGs3fXH4dZ
冒頭で書いたように、緑黒型のスパイの弱点は「不安定なマナベースが克服できない」というものだった。だが、試しに私が77枚型の登場以前に調整していた緑黒型と比較しても、《新生化》《異界の進化》を使う都合上《森の女人像》《楽園のドルイド》が両方採用されているという以外、(選択肢がMDFCしかない以上当然だが)マナベースの面でとりたてて大きな変化はなさそうだった。にもかかわらず、77枚型は以前の60枚型とは比べ物にならないほどの好成績を残せている。
それに+5枚程度ならいざ知らず、相棒の《空を放浪するもの、ヨーリオン》もないのに10枚以上もデッキを増量しておいてマリガンに悪影響を及ぼさないはずがない。
私の直感が告げていた。「このデッキにはまだ伸びしろがある」と。
■ 2. 63枚型への回帰
マナベースとは、そのデッキが実現したい理想の動きを一定以上の確率で実現するためのものだ。
したがって、いかに一時の上ブレで良い成績を残せたりしたとしても、スペルの組み合わせ以外の理由で理想の動きをきちんと再現できないというならば、そのマナベースは破綻しているということになる。
さて、では本当に「スパイはライブラリーを増やした方が強い」のだろうか。77枚型のマナベースは、はたして一体どうなっているのか。
それを確かめるべく、私はとりあえず72枚、65枚と不要そうなカードを削りながら何度か実戦で回してみた。
Pioneer ZNRCSSQ The Spy
— Atsushi Ito (@matsugan) October 31, 2020
R1 Lotus Storm 🏆🏆
R2 Sultai Delirium 🏆❌🏆
R3 Naya Winota ❌❌
R4 5C Niv 🏆❌❌
サイドの選択肢がないのとやはりマナベースが厳しいな。 pic.twitter.com/LQw0hlAI11
Pioneer Challenge The Spy
— Atsushi Ito (@matsugan) November 1, 2020
R1 Mono Green Aggro 🏆❌🏆
R2 RG Aggro 🏆🏆
R3 Lotus Storm 🏆🏆
R4 Lotus Storm ❌🏆❌
R5 WB Aura 🏆(got tossed)
R6 Lurrus Burn 🏆❌❌
調整の結果65枚という新境地に辿り着いた。サイドはマナベースの都合で萎れにしてみたけどさすがに衰微っぽい pic.twitter.com/TC19t17UIz
そしてその結果、(少なくとも私にとって)驚くべき事実が明らかになったのである。
唐突だが、このデッキのキープ基準は何だろうか?
そう聞かれれば、おそらく9割9分の人が「《地底街の密告人》《欄干のスパイ》(と、それらをサーチできる代替パーツとしての《新生化》《異界の進化》)」と答えるだろう。
だが、実はそうではないのである。
パイオニアはアグロが強く、4ターンキルもざらに発生する環境である。したがって4ターン目に《地底街の密告人》《欄干のスパイ》を出してのコンボ始動では間に合わないケースが多い。
すなわち、仮に《新生化》《異界の進化》が絡まなかったとしても、《森の女人像》《楽園のドルイド》はいずれにせよ必要というのが、このデッキが環境で通用するための最低条件となってくる。
そして、「キープする手札には必ず《森の女人像》《楽園のドルイド》が含まれている」……このことを前提にすると、見えてくる世界が全く違ってくる。
たとえば「3ターン目に《地底街の密告人》か《欄干のスパイ》をプレイする」ことを前提にしてみよう。このためには「2ターン目までにマナ加速する」ことを満たしつつ、「3ターン目にアンタップの土地を置」かなければならない。この要求は極めて高く、上で載せたように2ターン目の(緑)を要求しないために《起源の柱》を採用する必要があったくらいである。
だが、「3ターン目に《新生化》か《異界の進化》をプレイする」という前提を置いたならばどうだろうか。
そう、実は《新生化》にせよ《異界の進化》にせよ、2ターン目に《森の女人像》または《楽園のドルイド》を出せている限り、アンタップインどころか3枚目の土地そのものを必要としないという重大な真実が浮かび上がってくるのである。
つまり、77枚型が真に明らかにしたのは実は「スパイはライブラリーを増やした方が強い」という命題ではなく、「スパイは《新生化》と《異界の進化》を軸にした方が実はマナベースに負担をかけない」という隠れた真実だったのである。
なぜなら、「《森の女人像》または《楽園のドルイド》を引いている」という前提に立つ限り、一緒に引いているのが《新生化》であろうと《異界の進化》であろうと問題になることはないからである。したがって、すべてのネックになっているのは《森の女人像》《楽園のドルイド》であって、3色のデッキの方が2色のデッキよりも低い負担で済む……これはまさにブレイクスルーであった。
この新たな事実がもたらしたデッキパワーの底上げはすさまじく、具体的にはスパイというデッキはトリプルマリガンまでできるようになったのである。最低でも土地2枚/マナクリ/《新生化》系という手札で全く問題ないからだ。77枚型の勝率を担保していたのは、実はこうしたマリガンの許容性であったと言える。
さて、そうとわかれば77枚にこだわる理由は1ミリもない。むしろキープ基準が《森の女人像》と《楽園のドルイド》である以上、ライブラリーの枚数は少なければ少ないほど良いはずである(もちろん相手によっては《絡みつく花面晶体》で代替できることもあるが、それに賭けるシチュエーションは少ないに越したことはない)。
そういうわけで、私はライブラリーを限界まで削る作業に没頭した。《新生化》または《異界の進化》が軸となる以上、《地底街の密告人》と《欄干のスパイ》の枚数は絞れる。
その結果生まれたのが、《地底街の密告人》と《欄干のスパイ》を2枚ずつに絞った、冒頭の63枚型であった。
もちろん《新生化》と《異界の進化》に寄せることで《呪文貫き》などのカウンターに引っかかりやすくなってしまう弊害もあるが、それはこのデッキが定着してそういったカードが採用されるようになった後に考えればいい話で、スパイというデッキにおける最強だけを目指すなら、《新生化》と《異界の進化》に寄せた方が安定性の面で間違いなく強いと言える。
■ 3. その他アレンジを加えた点とその理由
《思考囲い》の撤廃。現状のデッキ構成を前提とする限り、《思考囲い》が必要なシチュエーションは極めて限定されている。それは、3ターン目までにカウンター/対策カードを構えられるシチュエーションである。
アグロが強いパイオニアにおいてはそのようなシチュエーションは想定しづらいため、ライブラリーの枚数を増やしてまで《思考囲い》を入れる必然性は見当たらなかった。また、(黒)を積極的に捻出したくないマナベースの問題もある。少なくともメインから《思考囲い》を入れるべき必然性は、コントロールがメタゲームの中心にならない限り、存在しないものと言わざるをえない。
サイドの《ナルコメーバ》は、アグロ対策の他にも《乱動する渦》対策でもある。ルールスバーン相手は《乱動する渦》を置かれて1マナを立てられると《銀打ちのグール》が蘇生しないために《秘蔵の縫合体》も帰ってこない事態になりうるが、《ナルコメーバ》が1枚入っていればワンチャンスが生まれるからだ。
サイドの《スカイクレイブの亡霊》は、《新生化》《異界の進化》を前提にした上で《魂標ランタン》と《漁る軟泥》を同時にケアしうる数少ないカードである。
サイドの《真髄の針》は、同様に《魂標ランタン》と《漁る軟泥》を同時にケアしうる数少ないカードとなる。ロータスストームに対して《演劇の舞台》を封じうるという細かい役割も一応存在する。こちらは《新生化》と《異界の進化》でサーチはできないが、《突然の衰微》の5枚目といった意識で採用している。
サイドの《虚空の力線》の枚数については、このデッキを使用しはじめて40マッチほどの間に同型を全く踏まなかったというのが大きい。おそらく多くのプレイヤーにとってスパイはまだ二流デッキという認識なので、今後63枚型が流行すればまた同型対決をケアする必要性が出てくるのかもしれない。
最後に、このデッキの回し方については、「(少なくともメインボードは)3ターン目にライブラリーが全部墓地に落ちないハンドはトリマリまでキープしない」という一点だけ守っていれば問題なく回せると思う。
ちなみにこのデッキは世にも珍しいサイドインはするがサイドアウトを全くしないデッキなので(つまりサイド後はライブラリーが増える)、サイドインアウトに困ることもない。これは「キープ基準が《森の女人像》と《楽園のドルイド》だからライブラリーは少ない方が良い」と一見矛盾するようだが、トリマリまでできるというデッキの構造を考えると、少しくらい不安定にしても十分耐えられるという許容性の問題なので(もちろんサイドアウトできるカードがあるに越したことはないのだが)、理論的に両立しうると考えている。
それでは、良いスパイ生活を!
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Today's Tune
ニガミ17才「こいつらあいてる」