だらだらブログ

なんかゴミです。

【だら草058】リビングエンド調整録

 

 さて今日は、先日私が330人規模のMOMCQでトップ4まで勝ち上がった「リビングエンド」というデッキについて、それがどのようにしてできあがったものなのかを語っていこうと思う。

■ 1. 邂逅

 私が使用した青ベースの「リビングエンド」は、もちろん私のオリジナルというわけではなく、ベースは禁止改定前後に結果を残していたとあるリストを見たことから始まる。

 2月21日のモダンチャレンジでHeibingというプレイヤーが7位に入賞していたそのリストは、実はその前週、禁止改定施行前の2月14日のモダンチャレンジでも同じプレイヤーの手によって7位に入賞していた。

 そう、あの悪名高き続唱ティボルトがまだ合法的に使用できた時期の大会でさえ入賞していたのだ。

 「これは勝つだけの理由が何かあるに違いない」と考えた私は……しかしここでは一旦、リストをコピーしてMOのデッキ入れに放り込むだけ放り込んでおいて、まずは別のデッキの調整に時間を割くことにしてしまう。

 《猿人の指導霊》の禁止によって壊滅的な被害を受けた私のレギュラーデッキたち……「ネオブランド」「アドグレイス」「スパイ」のことは、私自身が一番よく知っている。それに比べて新しいデッキに習熟するのには時間がかかる以上、まずはそれらの慣れ親しんだデッキを調整して、リペアがどうしても使い物にならない場合に最後の切り札として「リビングエンド」を調整しようと思っていたからだ。

 はたして、「ネオブランド」はもともとそれほど強くなかったデッキが弱体化して明確に握りたくないデッキに変わり、「アドグレイス」もスピードの低下によって速度で誤魔化せるマッチが減ったことに加えてコントロールに強いコンボというポジションも環境の変化でほぼ無意味になり、「スパイ」も3つの中では一番マシなもののマナ加速アーティファクトへの依存率が上がったことでサイド後の特に後手番の勝率が著しく低下したこともあって、3つのデッキはどれも私がメインで握りたいデッキではなくなってしまっていた。

 それでも3月6日のショーケースチャレンジと3月14日のモダンMCQという2週連続での重要度の高い大会の日程が迫っていたし、環境変化後の大型大会はローグデッキを握る絶好の機会ということで、私は環境から見落とされた何かしらの必殺コンボを探し求めていた。

 ただし、そのコンボは2つの条件を満たす必要があった。それは、1. クリーチャーに依存しないコンボであること。2. 十分な速度があること。この2点だ。

 《猿人の指導霊》がいなくなったことで非クリーチャー系のコンボは軒並み死滅した一方で、「ストーム」に「ハンマータイム」や「感染」、「ターボドルイド」などのクリーチャーに依存したコンボはいまだ健在であった。それを踏まえてメタゲームが当時おおよそ「フェア・クリーチャーコンボ・土地コンボ」の3すくみとなっていた以上、このいずれかに包含されるようなデッキを持ち込んでも意味がない

 当然、条件を満たすデッキ探しは難航した。唯一「発掘」が条件を満たすようにも思えたが、確かに他に墓地を使うデッキが存在しないため立ち位置だけは良さそうなものの、速度が足りずメイン戦でも普通に負けうるなど、現モダンにおいてはデッキパワーの不足が目立つ点がネックだった。

 とはいえ、それでも他に何もなければ一番マシな選択肢ではある。こうして最悪「発掘」で出ることも覚悟しようとしたそのとき。

 上記の条件を完璧に満たすであろう、「リビングエンド」というデッキの存在を思い出したのである。

■ 2. 純化

 私はコンボデッキを作る際、コンボの再現性が最も高いリストの構築を目指す。それは言ってしまえば、コンボデッキとしての純粋さを極めようという方向性に等しい。

 Heibingのリストで気になった点は、1. 《死せる生》4枚は不要ではないか。 2. デッキのアンフェアな部分を最大限強化した方が良いのではないか。 3. マナベースがレアケースをケアしすぎではないか。 という3点が主だった。

 その3点において、リストがコンボの動きを再現することに関して一貫していない……すなわち純化されていないと感じたのだ。

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 まず1点目、《死せる生》の枚数については、このデッキはその性質上24~25枚前後のサイクリングを採用していることにより、最終的に手札に溜まるのが残りの35~36枚になることがあらかじめ決まっているデッキである。

 したがって《死せる生》は枚数が多ければ多いほど手札に来やすいことは自明であり、それは偏に「順調にサイクリングを重ねられたとしても《死せる生》しか引けずに死ぬ可能性」が高まるということを意味していた。

 これで《予言により》も4枚採用されているなら「両方を揃えて手打ちしたい」という理論としてまだしも理解はできたのだが、《予言により》が1枚しか入っていないという時点で、少なくとも4枚目の《死せる生》と1枚の《予言により》は不要であるとの結論に至った。

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 続けて2点目、デッキのアンフェア部分の強化について。《猿人の指導霊》が禁止された時点で、コンボデッキがフェアデッキに対して誇ることができる最大のバリューである「速度」はほとんど失われてしまった。

 だが例外が《宝石の洞窟《否定の力》で、数少ない「ゼロ」のアクションであるこれらをデッキに無理なく搭載できることこそが「リビングエンド」というデッキの最大の強みであると私は考えた。したがって、最大枚数以外ありえないというのが純化という視点からの私の結論だった。

 最後に3点目、マナベースに関しては、《血染めの月》の採用率の低さと《宝石の洞窟》フル搭載に寄るマナベースへの圧迫を考えると、サイクリングに寄与しない《森》や《平地》は抜いて「どの2枚を引いても(青)(青)が出る」という青マナベースの土地構成を徹底することがデッキの安定性に資するというのが理論的帰結だった。

 ちなみにこれらの3点についてはMO上での一人回しと妄想のみで導き出した結論であり、対人戦での検証は一切経ていない (※デッキが広まる可能性を減らしたかった……というのは言い訳で単に面倒だった) ことに留意されたい。

 かくして3月6日、まずはショーケースチャレンジの時を迎える。脳内で純化したリストははたしてどこまで通用するのか。

 この日の結論は、「コンセプトとしては極めて強いものの、リストの完成度は明確に不足している」というものだった。

 冷静に考えると当たり前で、コンボデッキとして純化すればいいメインボードはともかく、本来なら対人戦が必要なはずのサイドボードの構築まで脳内でやっているので、サイドインアウト含めて適切にできるはずもない。

 だが少なくともコンセプトが強いことの確信が得られたことは大きく、「来週もこのデッキを使おう」という自信だけは持てた私は、翌週のMCQに向けた最終調整に向かうことにしたのだった。

■ 3. 提案

 ここで、ショーケースチャレンジのリストを見て「リビングエンド」というデッキに興味を示した人物がいた。ジャイルーダコンボでも意図せずして同じデッキを高め合ったゆうやんだ。

 2020年6月のプレイヤーズツアー・オンラインの際に私を含めた4人による調整チームを組んで以降、ゆうやんとはLINEグループを結成していた。そこで彼が「試した感じ、《宝石の洞窟》は別になくても勝てるのでは?」と提案してきたのである。

 私としては既に書いたとおり、《宝石の洞窟》は《否定の力》と並んで「リビングエンド」を「ゼロ」を活用したデッキたらしめている重要な要素の一つであり、このデッキを見出した理由の一つということで、経緯を踏まえて最初は反射的に反発した。

 しかし実戦を経験した上では確かに《死せる生》というカードの環境への刺さり具合はそれ自体非常に良かったため、後手番3ターン目始動を無理に2ターン目始動にする必要があるマッチアップもそれほど多くないと感じたこともあって、最終的には助言を受け入れて《宝石の洞窟》の枚数削減という結論に同意することにした。

 また、ゆうやんは私がショーケースチャレンジで挑戦した《死せる生》2枚の構成についても、「青いデッキ相手には2回打つこともあるから3枚が安定」との意見をくれ、これについても私は採用することにした。

 さらにショーケースチャレンジで新たに発覚した問題点として、「サイド後に相手の墓地対策を易々と乗り越えられる手段が欲しい」というものがあった。

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 「リビングエンド」というデッキは「発掘」とは異なり、相手の墓地対策をどけたとしてもその後コンボを始動するまでにサイクリング用のマナをさらに多数必要とする。したがって、置き物の墓地対策はそもそも可能ならば着地させる前に何とかしたいデッキである。墓地対策のうち《墓掘りの檻》が効かないという特性はあるものの、サイド後からは《大祖始の遺産》や《虚無の呪文爆弾》などを普通に設置されてしまうケースもあると考えると、4枚の《否定の力》だけでは頼りなく、かといって着地を許す前提の《鋳塊かじり》では力不足というのが実戦からのフィードバックだった。

 だが、そもそも「リビングエンド」は「続唱」の関係から3マナ以上のカードしか採用できないという縛りがある。その条件の下で相手の墓地対策の設置や起動を現実的なラインで防げるカードはどう考えても《否定の力》くらいしかない。

 悩んだ末、私はサイド後は墓地に依存しない全く別の勝ち手段を採用できないだろうかという発想に至った。

 そこでまず私が考えたのは、《サヒーリ・ライ》+《守護フェリダー》コンボだった。

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 「リビングエンド」というデッキは最終的にはクリーチャーの攻撃で勝つとはいえ、コンボ発動には盤面のクリーチャーが全く関係ない上にコンボが発動すると多少のクリーチャー除去では押しとどめられないほどのクリーチャーが並ぶため、相手はクリーチャー除去をサイドアウトしがちである。そこにサイド後は全体除去と割り切った《死せる生》からサヒーリコンボを決めることで、墓地対策の裏をかいて勝利できるのではないか、と考えた。

 しかしこのプランは脳内ですぐに破綻した。なぜなら赤青果敢のようなアグロデッキが墓地対策を積んでくるケースを想定すると、いくら盤面リセットがあるとした上でもどう考えてもサヒーリコンボが決まるはずもないからである。

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 ゆうやんともアイデアを出し合い、1枚で勝てる《精神を刻む者、ジェイス》《情け知らずのガラク》《復讐のアジャニ》なども脳内で検討した。しかしサヒーリコンボが決まらないのと同じ理由で、これらのプレインズウォーカーが生き残れるとはどうしても思えなかった。

 やはり3マナ以上というカード採用の縛りがある「リビングエンド」で、墓地に依存しない勝ち手段を用意するのは不可能なのか……そう思われた。

 だがそこで、新たな人物がアイデアをもたらしてくれた。

 殿堂プレイヤー、津村 健志である。同じLINEグループに所属していた津村は、私とゆうやんとのやりとりを見た上で条件に合うカードを探し出し、一つの提案をしてくれたのだ。

 そして、そんな津村の提案が世界を変えた。

津村サイド後待機のサイと借り手で勝てんかな?

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 《衝撃の足音》。このカードを見たときはまさしく雷に打たれたような衝撃を受けた。

 《死せる生》の弱点はサイド後の墓地対策に対する脆さにあった。それを解消するために別の勝ち手段を模索したが、そもそも何らかの有効な勝ち手段が見つかったとして、それを何枚採用すればいいのか、採用したとしてきちんと引き込めるか、というのが別の問題としてあった。だが《衝撃の足音》なら、サイド後に《死せる生》を丸ごと《衝撃の足音》に入れ替えることで、「続唱」でサーチできる勝ち手段になるのである。

 さらに《厚かましい借り手》は、Heibingのリストにも入っていたため当然調整過程で何度も通過していたが、さすがに3/1飛行だけで殴りきれるほどモダンは甘くない。ゆえにあくまで3マナのカードだけれども2マナで撃てるバウンスが主で、クリーチャー側は付いてるだけマシなオプションという認識だった。だが《衝撃の足音》とのセット採用で2体の4/4トランプルとともに殴るなら、どちらのモードも有効活用できる立派なビートダウンプランが成立する。

 早速調整の詰めとしてプレリミナリーに出場した私は、不利な「発掘」とローグである「青赤キキジキ」に敗北するも、《衝撃の足音》が有効であるという感触をしっかりと得ることができた。

 理論上最強。そう確信した私は、そこから若干の調整を施した冒頭の75枚とともに3月14日のモダンMCQ当日を迎えたのだった。

■ 4. 欠陥

 MCQ当日。この日はMTG ArenaのシールドのMythic Qualifier2日目と被っていたため、モダンのラウンド終了→ラウンド残り時間が30分以上ならシールド→モダンの次のラウンド待ち……という体力的に相当シビアな二面打ちをこなしていた。

 それでも、「リビングエンド」というデッキはこの日あまりにも強すぎた。しかもサイド後は《衝撃の足音》というシークレットテクが墓地対策をかいくぐって対戦相手をことごとく粉砕した。3ターン目に登場する2匹のサイは、「墓地さえ封じれば何もできないでしょ」と侮る相手を轢殺するには十分すぎた。その結果、シールドを4-2で首の皮一枚でつなぐ傍らで順調に6-0することに成功する。

 津村からのアイデア、それもサイドボードに関するものであるということもあり、私は否応なく6年前の出来事……「Super Crazy Zoo」における《わめき騒ぐマンドリル》との符合を感じざるをえなかった。

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 あのとき私が越えられなかった一線を、津村は軽々と越えて見せた。ならば私もまた、あの日叶えられなかったプロツアー優勝という悲願を、このMCQの優勝という形で叶えるのだ。

 テンションは最高潮に達していた。誰にも負ける気がしなかった。

 だが。

 7回戦目、Patxiの「ヘリオッドカンパニー」と下当たりした私は、このデッキの致命的な欠陥を発見することとなってしまう。

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 《イーオスのレインジャー長》がマジで終わってるのだ。

 「続唱」はスタックに乗るため、一度出されてしまうと相手は「続唱」にスタックしてサクるだけで《死せる生》のプレイを防ぐことができる。《否定の力》で防ぐことができない実質置き打ち消しというだけでも厳しいのに、しかも《イーオスのレインジャー長》はそのまま墓地に行くため、その後のターンで《死せる生》を解決できたとしてもなぜか場に戻ってくるというオマケつきである。

 まさかトップメタのデッキに対して致命的に相性が悪いとは……モダンのトップメタのシェアは10%もいかないため特定のマッチアップの練習が難しいとはいえ、明らかに実戦不足の弊害であった。

 その後、続く8回戦9回戦は無事勝利してトップ8入りを決めるも、この段階でシールドは6-3で前月と同様あと一勝足らずが確定。さらに準々決勝は「エルドラージトロン」の《虚空の杯》を乗り越えて《衝撃の足音》でどうにか勝ったものの、準決勝でまたしてもPatxiの「ヘリオッドカンパニー」と激突し、2ゲームとも土地1ストップで見せ場なく完敗。そのままPatxiが優勝をもぎとる一方で、私の方は「二兎を追う者は一兎をも得ず」を体現した結果となってしまったのだった。

 もし仮に「ヘリオッドカンパニー」との相性が事前に発覚していたとして、相性差を改善できたとは思わない。《イーオスのレインジャー長》がきついのは構造的な問題だし、サイドも特に有効なものは今この段になっても思いつかないからだ。

 だがそれでも、知っていれば何かが変わったかもしれない。いずれにせよ確かなことは、ベストを尽くさなかった人間に結果を嘆く資格はないということだけだ。

 せめて私としては、こういう物語があったということをこうして書き残すことで、モダンの環境にそれでもわずかばかりの爪痕を残したのだと意地を張るばかりである。

 最後に、「リビングエンド」は現状メタ上では「ヘリオッドカンパニー」と「バーン」「発掘」相手だけ極端に不利なものの、他のマッチはほぼすべて五分以上に戦えるという、トップメタに不利とはいえそれでも非常に強力なデッキである。現在のモダンで非クリーチャー依存のコンボが使いたいという方は、ぜひ試してみて欲しい。

            ◇

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 NujabesLuv(sic) feat.Shing02

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