2019年は、TCG界隈に有料記事という文化が浸透した年だった。
私自身も有料記事に挑戦し、予想以上に多くの方からご購入いただいた。
こうした有料記事文化は、コンテンツを進化させるのだろうか?
有料記事のメリットの一つは、ライターに直接報酬が入るため、執筆のインセンティブになりやすいというものがある。
良質なコンテンツを作るのはライター側にとってかなりの労力を要するため、承認欲求だけに基づいて執筆することは難しい。しかし他方で、その対価が金銭という形である程度約束されているのであれば、労力を厭わず書こうと思う人も増えるだろう。
その意味で有料記事は、「1.有料でも無料でも書く人」「2.有料であれば書いてもいいという人」「3.有料でも無料でも書かない人」のうち、2の層に対する執筆動機となることで、コンテンツ生産者の数そのものを増やす機能があると言えるだろう。
ただコンテンツの質という点において考えてみると、モラルハザードのリスクを孕んでいる点が問題となる。報酬が金銭という形で定まってしまっているのであれば、ライター側としては「なるべく少ない労力で執筆した記事でなるべく多くの購入者を集める」ことが最適解となってしまうからだ。
週末の大会で活躍したデッキリストのみを有料記事とするようなやり方は、ある種そうした最適解へと収斂する動きの表れと言える。またデッキリストに価値があるとすると、競争者との関係では自分が第一人者になるための投稿速度が重要となるため、編集の手間を極力省いて先に縄張りを主張し、「後日説明などを追加」という形にした方が合理的となってしまうのも自然な流れではある。
だが、もちろんそのデッキを作るのに多大な労力がかかっているであろうことは前提とした上でも、コンテンツの質という面においてはこうした傾向はあまり歓迎すべき流れではない。
コンテンツが進化するために理想的なのは、コンテンツの質による競争が行われ、より良質なコンテンツを供給した者により高い報酬が支払われるシステムである。
では、どうすればそうしたシステムが実現するだろうか?
一つ考えられるのは、モラルハザードを防ぐため、大会結果におけるデッキリストの非公開を禁止ないし抑制することである。これはいかなる手段によって実現しても構わないので、たとえば公開した場合に賞品を+αする、といった手法が考えられるだろう。
しかしこれは「質以外の方法で競争させない」というための消極的なアプローチであって、質による競争を実現するにはまだ足りないものと考えられる。
そこでもう一つ考えられるとすれば、無料記事のスケール化である。無料で一定の質を持つ記事を定期更新するメディアが現れると、有料で出したいライターは差別化の必要に迫られる。そうなればそこで書かれる内容は、スケールした無料記事に対抗するために、より質の高い領域へと必然的に追いやられることになるだろう。
いわば無料記事の領域を広げることで、有料記事が可能な領域を強制的に下層から上層へと引き上げる施策と言える。
ここまでくると、有料記事という手法そのものはコンテンツに幅広さをもたらしはすれど、それ単体ではコンテンツの進化には特に寄与しないだろうという予想が付く。有料記事によってコンテンツを進化させるためには、無料記事の質を高めることで、有料記事によって提供される内容を「無料記事によっては実現できない高みの領域」にまで追いやる必要があるのだ。
Q.有料記事はコンテンツを進化させるか?
A.有料記事は執筆者の数を増やすが、有料記事という手法そのものはコンテンツの進化に寄与しない。有料記事の質を上げるためには、モラルハザードのリスクを排除しつつも、コンテンツの質による競争を実現するべく無料記事をスケールする必要がある。
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